私が研究する専門分野は、「認知科学的意思決定論」と呼ばれるものです。人間や他の動物の意思決定現象を定量的に記述し、認知科学(特に認知心理学)の隣接分野である知覚、記憶、推論、言語、知能、問題解決などの理論に照らしながらその認知プロセスを考察していくというものです。
その中でも私が特にフォーカスするのは、医療文脈におけるリスク認知や医療者-患者間のリスクコミュニケーション研究です。このエリアにおける日本での研究者は極めて稀ですが、欧米を中心に30年以上の厚い歴史を持つ確固たる学問エリアです。解決すべき多くの医療問題を抱える我が国においても、今後は大いに盛んになるだろうと予測します。現場への応用を考慮した研究が多いのが特徴でしょうか。
これと並行して、意思決定プロセスにおける感情/情動の影響やそれらを中心に据えたモデルに関しても強い興味を持っており、この分野での理論的研究も同時に進めて行きたいと考えています。
JDM/判断・意思決定科学とは何か?
私たちが研究している認知科学(cognitive science)におけるJDM(judgment and decision making)/判断・意思決定科学は、不確実(リスキーまたは曖昧)な環境において、どのように人間(や他の動物)が判断を行い意思決定行動を起こすのかを、背後にある認知プロセスへの理解と共に明らかにしようとする科学です。認知心理学者、ミクロ経済学者、情報科学者、哲学者、数理統計学者、人工知能科学者などが集まってわいわいやっている、極めて学際的な学問エリアでもあります。
その理論的枠組は、大きく分けてnormative(規範的)とdescriptive(記述的)のモデルがあります。前者は確率論など数理的に「採るべき」意思決定の手法を考えるものですから、主に経済学者やゲーム理論の人間などが楽しそうにやっており、応用もビジネス領域や国際政治戦略などが多いです。
が、私のように認知心理学から入っている者は、後者のdescriptiveなモデルにより興味がありますので、規範的な振る舞いから大きく外れる実際の人間の意思決定行動を、そこに隠れる認知バイアスを調査しながら研究しております。このエリアは認知心理学者Kahnemanや故Tverskyが開発した研究領域で、Kahnemanは二人で育ててきたこのProspect理論と拡張の功績により、2002年ノーベル経済学賞を取りました(Tversky博士に黙祷)。
よって、認知心理学系のJDM(判断・意思決定科学)とは、どちらかと言うと「どのように論理的な規範から外れるのか」、「外れる際にある程度systematicなルールは発見できるか」、「その認知的なメカニズムは何なのか」に興味があると言ってもよいでしょう。勿論、それを裏返しにすることで、第3のモデルとしてのprescriptive(処方箋的)なトレーニングも行える訳で、医学部教育やMBA教育などへの応用もたくさん研究されています。卑近なところでは、マーケティング分野で消費者行動や保険プランの組立などに応用されています。
ただ、これはサイエンスとしてきっちりした枠組を目指すときのトレードオフなのかも知れないですが、あくまでも個人の認知、脳みそ、そしてメカニズムにフォーカスしているため、複雑な集団ダイナミズム、文化的枠組み、意思決定時に使用される(より文化的な)価値判断などを抱合するのが困難になります。そこには社会心理学的、そして価値システムを研究する他のエリアの方法論を借りながら進むのが賢明です。
MDM/医療意思決定科学とは何か?
簡潔に言えば、「医療文脈におけるJDM」が、医療意思決定科学(medical decision making: MDM)という学問的枠組みだと言えます。私なりに4つのポイントに分けて下記に簡単に紹介しています(一部私の修士論文メモから抜粋しています)。各々の小見出しをクリックすると該当文章が展開します。
1) 医師/医療側に関するMDM
日本以外の学界、特に欧米のそれに目を転じれば、認知心理学やJDMの分野において、積極的に医療コミュニケーションをテーマとした認知科学的研究が行われてきました。例えば、患者の健康的な生活習慣を促進するための研究が、公共衛生学とのタイアップの中で盛んに行われており、また、医師-患者間のリスクコミュニケーション研究や患者のリスク認知に関する研究なども、医療安全工学や医療情報学との連携を視野に入れての研究事例が豊富です。同時に、研究成果を医療現場での情報提供ツール開発などに応用する動きも盛んになりつつあります。
その中にもいくつかの研究のタイプがあります。まず、規範的(normative)もしくは処方箋的(prescriptive)な意思決定に注目し、医療者のより科学的な臨床決定や処置に繋げよういうタイプのもの。例えば、Stalmeier et al(2001)は、医学的文書内の臨床決定における効用・選好がどのように書かれるかが、患者の病状表現や考えうる最悪のシナリオなどの組み合わせで大きく変化することを示し、改善のためのガイドラインを提案しています。また、医学的検査データの解釈に関してBergus(1995)は、検査データを医師が臨床決定に利用する際にベイズの定理を用いることが必要であるにもかかわらず、実際には多くの医師がそれを無視し、結果として検査手法によるバイアスが露呈することを示しました。
他にも、このエリアには「decision analysis」と呼ばれる一群の研究があり、意思決定の処方箋的枠組みから医療機関レベルでの医療・投薬戦略を最適化し、投資対効果の測定をしようとする試みに繋がっています。多くの医療経営学の専門家や経済学をバックグラウンドとした意思決定の研究者も多く参加するフィールドです。並行して、そこでの知見を元に、情報工学や人工知能学の研究者と共同でニューラルネットワークを利用した臨床エキスパートシステムなどを構築しようとする動きもあります(Patel, 2002など)。
次のタイプの研究は、認知的意思決定科学が蓄積してきた豊富な記述的理論やモデルの枠組みを用いて、その妥当性を現実の医療環境の中で検証し、実際の医療現場での問題解決に繋げようとするものです。ここでは、意思決定研究において通常は学生が動員される「被験者」グループに、実際の患者や医師を参加させることになるため、より実証的で妥当性の高い研究が期待されることになります。また同時に、その知見を公衆衛生学の視点から幅広く応用することも可能となるでしょう。この分野はさらに細分化すると、医師の意思決定を主な対象とする研究、および患者のそれを対象とするものとに大別されます。
医師を対象とする認知科学的研究で盛んなものの1つに、彼らの診断の意思決定プロセスを研究する臨床意思決定(clinical decision making)・臨床推論(clinical reasoning)と呼ばれるエリアがあります。30年以上もの歴史を持つこのエリアは、医学教育への効果的な応用なども期待され重要視されてきました(Norman, 2000)。だが、そこに認知科学的なアプローチがなされ始めたのは1990年以降であると言われています(歴史的なレビューについてはPatel, 2002に詳しい)。
中でも、医師が規範的な意思決定モデルに従って診断を行わず、「病理スクリプト」と呼ぶスキーマを用いると考える「スクリプト理論」がSchmidtら(1990)によって提案された後は、臨床推論を単一な汎用的な論理・推論能力とは別の認知メカニズムで捉え、それを狭義の「意思決定」ではなく、認知科学の他のエリアである問題解決やカテゴリー化に強く関与する現象である(Charlin, 2000、Hamm, 2003、Patel, 2002)と考える研究者も増えています。最近では、病理スクリプトの3要素(患者関連の文脈情報、生理学的な疾患情報、兆候や症状)が互いにどのように関連し合い、医師の紹介行動などにどう影響するかの研究(van Schaik, 2005)などが進んでいます。
2) 患者に関するMDMやリスクコミュニケーション研究
認知的意思決定科学における記述モデルの枠組みで医療を研究する際に、前述のような医師の認知プロセスではなく、患者のそれを主な研究対象とするものも多いです。例えば、RedelmeierとKahneman(1996)は、結腸鏡検査を体験する患者が感じる痛みの印象と選好が、痛みの程度や検査時間とどのような関係にあるかを調査し、苦痛が最大時のときと検査終了前3分間の苦痛との平均が検査全体の印象を左右している(検査時間の長さは印象に無関係)ことを示し、それをpeak end effectと呼びました。
リスク認知のエリアでも、Slovicら(2000)がaffect huristics理論を背景に、喫煙行動を非合理的なものなのだが認知的な経験システム(experientail system)に強く働くプロセスであり行動変容が難しいと論じています。またBleichrodtら(2000)は、確率情報の重み付けが、通常の金銭的アウトプットを想定した実験課題においてよりも、治療成果をアウトプットとした医療文脈課題の方でより強くなることを示しました。これらの研究は主に、意思決定科学における記述理論の妥当性を医療文脈を利用して調査するスタイルだと言えるでしょう。
一方、医療界での様々な問題解決を意識して行われる医療リスクコミュニケーション研究も数多くあります。例えば、そもそも患者が医療者から与えられた医学情報を適切に理解できているのかをvan Steenkisteら(2004)は心臓疾患の予防ガイドラインを使って調査し、知識理解が不十分であるのみならず、リスク認知も偏向していることを示しています。その上で、患者が持っている考え方や不安などに応じる形での患者教育教材の作成を提案しています。同様に、女性が医療者とのカウンセリングの直後でさえ乳がん発症リスクについて正しく理解しておらず(自分の言葉を用いて既に「解釈」を行ってしまう)、そこには選択的な認知バイアスが存在するため、カウンセリングの教育効果を患者の再認の精度のみでは計測できないことも示されました(van Dijk, 2004)。また、患者が医学データを解釈する精度を測るスケール自体の開発の試み(Schwartz et al., 2005)も行われています。
また、認知的意思決定科学では極めて頑健に現出する「フレーミング効果」も、患者が医療情報に接する文脈にて多く実験されています。RothmanとSalovey(1997)は、健康な生活習慣や医療行動を促進するメッセージを利得と損失とのフレームで患者に提示した場合、ターゲットとなる行動が病気の発見に関係するのか健康の増強に関係するのかで効果に差が出ることを示しました。治療効果に関しても、Moxeyら(2003)は既存の40の実験例を総合分析し、外科手術の治療選択が利得(生存)フレームで提示されると他の治療オプションよりも選択されるなどという一貫した傾向はあるが、効果の強さはシナリオの種類(治療選択、健康増進行動など)によって異なることを示しています。いずれの研究も、より適切なインフォームドコンセントのためには複数の手法で医療情報を患者に提示する必要性を求めていると言えるでしょう。
この流れを踏まえて、医療情報の中でも特に、データ数値を異なる表現手法で提示することによって、患者の意思決定に差が出ることを示す研究も多くあります。絶対的スケール(「1万人に1人」)と相対的スケール(「0.01%」)との違いによる治療選択の差は多く研究されており、例えばHembroffら(2004)は乳がんに関する仮想的なシナリオを被験者に提示し、相対的スケールによるリスク情報の提示がよりバイアスのかかった選択を促し、それが絶対的スケールによるリスク情報で改善することを示しました。手術のリスク情報が数値、棒グラフ、アイコンの3種類のスケール表現により異なって認識され、棒グラフによる表現が最も理解しにくくかつリスクも過大に評価されることは、Timmermansら(2004)によって示されています。Welkenhuysenら(2001)は、遺伝病のリスクに関する確率情報を言語または数値で表現することとフレーミング効果との関係性を調べ、言語によるリスク確率の場合にのみ有意な効果が現れることを示しました。さらに、Timmermans(2005)は言語によるリスク情報の提示が被験者に好まれるも往々にしてその理解には困難を来たし、微妙な数値情報でも結局は「起こるか起こらないか」という「バイナリ知覚」に置換される傾向があることを示しています。これらの結果を受けて、数値によるリスク情報をより直感的に把握するための視覚的スケールも開発されています(Gurmankin, 2005)。
このように、医療者と患者がリスクコミュニケーションを行う際に想定される、特に患者側の医療情報の理解と不理解の現象に関しては、多くの研究がMDMの分野で行われてきている。ただし、それらはいずれもが1回きりの治療決定や健康維持行動の選択です。しかし、実際の治療選択の意思決定は単発のものではなく、特に最近注目される生活習慣病やがんの治療に関しては、闘病に複数年がかかり、治療決定の機会も複数回発生するのが通常です。この闘病経験の中で個人の患者がどのように医療情報やデータの解釈に変化を見せるのかに関する研究は、残念ながらまだ手付かずと言えましょう。もし、経年により患者のリスク認知に大きな変化が見られるようであれば、その原因を分析することで、広く一般の患者教育にも応用できる可能性があるでしょう。
まさにこの点が、私がMDM研究者として注目し調査を行っているエリアなのです。
3) 看護学における患者情報ニーズ研究の限界点
このような患者認知を探るMDM研究に一見類似するものとして、我が国では、主に看護学の分野で行われてきた研究があるでしょう。どこに大きな違いがあるのでしょうか。キーワードは「認知」。つまり、40年に渡る膨大な認知科学(判断・意思決定科学やリスク科学を含む)における知見との積極的な理論上の連結が欠けているため、現象を深堀りし、応用へと拡張することが困難であることです。
例えば竹中(2001)は、日本の総合病院で治療を受ける患者に対して質問紙調査を行い、「がん患者と家族のニード」を定量的に調査し、因子分析の手法を用いてがん患者の生活を構成する因子と下位項目とを抽出しています。がん患者やその家族が持っている雑多なニーズが1) 日常生活活動、2) 人間関係、3) サポート、4) 価値や信念、5) 経済状態、6) 民間療法・最新治療、そして7) 病期・治療に関する知識という7因子にまとまることを示した貴重な研究です。しかし、それは研究者自らが「実態探求型の記述デザイン」(p.76)と認識している研究であり、そこから得られた知見をさらに深く掘り下げる分析的研究や、実効性を持った形で医療現場に導入するという応用力には残念ながら欠けていると言えます。
あるいは、同様に患者ニーズの研究分野で近年注目を浴びたものに、7885人という大規模ながん患者サンプルを用い、定性的な調査手法を用いて彼らの具体的な悩みを体系化しようとした、静岡県立静岡がんセンターが行った「がんの社会学」に関する素晴らしい合同研究があります。前述の調査と同様に、この研究でもがん患者のニーズが構造的に把握されており、それは将来の患者への情報提供の際にフレームワークとして大きな参考となることでしょう。しかしやはり、この研究にもより分析的な認知科学による研究課題が入っておらず、また、実際の医療現場での応用性も明確には描けていません。つまり、「ニーズのある情報」の性格は記述され理解できたのですが、その情報を実際の現場で患者がどう受け取るか(「医療者が意図したように理解されているのか」)、またはどうすればより理解されやすくなるか、という踏み込んだ認知科学的な研究の側面が不足しているように感じられるのです。
例えば、「がんの悩みデータベース」(「がんの社会学」に関する合同研究班, 2004, 補遺p.1)の「診断・治療」の箇所では、「治療法の選択」が患者の大きな悩みとして挙がっています。自由回答例の1つとして、「いろいろなことを短期間に判断しなければならない残酷さ」(同, 補遺p.14)や「自分で選べと言われたが選べなかった」(同)苦しみなどが挙がっています。しかし、その悩みを持つ患者の認知構造や認知のダイナミズムに関しては一切踏み込まれておらず、それは後に続く研究へ託されるというスタンスを取っています。
同様に、インフォームドコンセントに関しても、「がんの社会学」チームは詳細に自由回答を分析し貴重な体系化を成し遂げています。例えば「専門用語での説明は難しく」、「十分な説明がなかった」(「がんの社会学」に関する合同研究班, 2004, 補遺p.16)など、「情報の受け手」である患者が情報の理解に難儀している様子を窺うことができます。ここで、「医療者は患者にも分かりやすいように情報提供をしましょう」というのがアドバイスとして挙がるのでしょうが、それだけでは具体的な実効力に欠けます。「患者はこのように情報を認知するため、この側面に注意して情報提供を心がけよう」という詳細なヒントにまで昇華できない理由は、医療者-患者コミュニケーションにおいて「両端の点(医療者・患者)」を繋ぐ「線の中身(情報)」のみが強調され、肝心の「点」や「点と線との関係」への分析、特に患者の認知状況の補足を見逃しているからではないでしょうか。
4) 病院管理学や社会医学での患者満足度研究とその限界点
他にも、我が国におけるMDM的な医療者-患者コミュニケーション研究の流れとしては、病院管理学や社会医学の領域で、80年代後半から盛んに行われてきた「患者満足度研究」が挙げられるでしょう。典型的な患者満足度研究、特に医療機関が現場で行うケースでは、いわゆる「意識調査」として患者に対して質問紙調査が行われるのが常です。そこでは、「あなたはこの病院での職員の接遇に満足していますか?」といった設問が並び、それを5もしくは7件法で回答してもらうことになります。多くの日本の病院が90年代にこれを行いました。
よりアカデミックな文脈においても、患者満足度研究は今も行われており、医療行政への少なからぬ提案もそこから来ているようです。そこでは、「患者満足度とはそもそも何なのか」の理論化が引き続き行われており、このコンセプトの操作的定義を、医療者-患者コミュニケーション文脈での「信頼感」や「対話の有無」などの他の因子との関係性を考察することで規定しようとしています。例えば山内ら(2005)は、「患者中心の医療」を患者満足度、医師との対話、信頼関係構築という3要因構成でモデル化し、患者が持つ医療知識や関与の程度、医師の考え方や医師の態度などがどのように相関し合っているのかを、患者(医療消費者)と医師の双方に対して質問票への回答を求め、その結果を共分散構造分析を用いてモデル化しています(2005, p.64)。
この結果は、医療コミュニケーションの「両端の点」に当たる医師および患者とが、同じ「患者中心の医療」という理想の枠組みに対して微妙にずれた意識を持っているさまが図式化されており、非常に示唆に富む結果と言えます。ただ、やはり認知科学的なフレームワークを持たないが故に、拡張的な有効性に関しては限界が指摘できるでしょう。やはり全体のコンセプト化がマクロ的と言おうか社会学的であるため、結果に対しての議論が少し抽象的なまま進んでしまう恐れがあります。
病院管理学などアカデミアの中では意味があっても、それが実際にミクロな現場レベルでの応用には結びつかないかも知れません。例えば、患者満足度を高めるために、では具体的にどのような治療プロセスを経たらよいのかのヒントが出ない上に、「医師のスキル」因子の得点を上げるためには、インフォームドコンセント時にどういった書類上、または医師コミュニケーションの工夫を行えば患者の理解が進むのかも不明です。パス図を描くことで現状認識に新しい光は差すのですが、さらにもう一歩、医師-患者コミュニケーション文脈での双方向理解に食い込むには、やはり次の一手としては、より踏み込んだ認知科学的フレームが必要となってくるのではないでしょうか。
無論我が国においても、意思決定の枠組みに即した調査も皆無ではありません。例えば、治療決定における患者参加において、医療情報の過多、病状の深刻度、家族の関与度といった要因がどう影響するかを糖尿病患者を被験者にして調査したSekimoto et al.(2004)は、的確な医学情報の提供があれば日本の患者も積極的な参加を望んでおり、最も病状の深刻度が高いケースの場合は、自身の関与に加えて家族の関与を強く望むことを示しています。だがやはり、この種の研究はまだ圧倒的に少ないと考えます。
昨今、わが国においても、意識の高い医療者と患者とが一同に会し患者のための医療を議論するという機会が増えてきています。しかし、双方の置かれている立場(つまり認知)があまりにも違いすぎるため、ギャップを乗り越えるのに困難を伴うケースが多いように見えます。この種の活動で著名な国際医療福祉大学副学長の開原氏は、立場の差から生じるコミュニケーションギャップは努力で多少は埋められても、結局は越えられないのではないかと苦渋の指摘をしています(大熊 & et al., 2006)。しかし、立場の違いは解消できずとも、異なる立場にあるもの同士が相手に固有の認知の「くせ」を理解することができれば、意義のあるコミュニケーションが動的に展開するのではないでしょうか。この視点が重要ではないかと、認知科学系の私などは考えるのです。
特に、医療現場で扱われるリスク情報の理解度には医師・患者間とで大きな差があり、かつ、情報が双方向で行き来するという点も考慮しますと、医療現場で起こっている現象はまさに認知的意思決定理論における「リスクコミュニケーション」に該当していると断言できます。判断・意思決定科学の枠組みを用い、その用語で現場を再補足することは、よりダイナミックな知見を約束するのではないでしょうか。
まさにこれこそが、私が応用研究のテーマとして目指すところなのです。
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長々とお付合い下さり有難うございました。
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研究者としての抱負/野望
常に変化する医療現場において、「実証的」な研究は可能なのでしょうか?認知科学やJDMの領域では、「実証的」の語を「定量測定的 + 統計的 + 認知科学理論で説明できそう的」という辺りで使う傾向があるように思います。しかし、社会医学や病院管理学の領域では、一体何が、目の前の現象に関して妥当性を持った測定量/変数なのかという議論自体が難しいように感じます。この点が、(個人或いはグループの)認知や行動という比較的マイクロなスケールを扱う認知科学や行動科学と大きく異なる難しさなのかも知れません。
ただ、そうではあっても、例えば医師-患者間でのリスクコミュニケーションに関しては、認知科学的なJDMで扱うリスク認知、確率バイアス、ベイズ統計などの大量の知見とそこで扱う測定量が、「医療」という文脈の差はあれども、そのコミュニケーション現象の一部を鋭く切り取れるのではないかと考えています。その結果、改善された医療サービスを実現するための武器にもなるのではないかと思っています。この「橋渡し」も欧米ではMDMのエリアなどで盛んになりつつあります。研究室での分析と現場での観察を有機的に往復しながら、高い応用力を持ちながらも、JDMの理論発展にも貢献できるような、戦略的な研究を精進して行きたいと考えています。
目指せ、日本におけるMDMのパイオニア(笑)!
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